全身の健康法と、予防歯科ついてお話しします。その1。
現代に生活している人は沢山の事を心がけなければなりません。
その中で一番大切なのは、今が高齢化社会なので末永く健康でいる事です。健康寿命を出来るだけ長くするのは皆の願いです。それで今は様々な健康法が提唱されており、それについての情報が色々あってどれが本当なのか迷います。
しかし一番基本的な事は体を動かす事です。それも毎日の生活の中で出来る事です。特に何か体操やジョッギングをするわけでなく、その前にするべき事です。それを私は毎日励行していますのでそれをお話しいたします。
1、最も大事なのはいつでも「深く呼吸する事」を日常化する事です。
2、次に大切なのは出来るだけ「良い姿勢を保つ事」です。
3、歯科医師としてもう一つ注目して頂きたいのは、食事の時に徹底して「何回も何回も良く良く咬む事」です。そして末永くよく噛める様に歯科の予防に努めることです。
この3項は殊更の健康法というよりむしろ常識の範囲です。しかし特に初めの1、2の項は現実にすっかり無視されており、人々はサプリメントや健康薬や散歩などに心が向きます。これ等は出費が伴い、或いはエネルギーが必要ですし、雨や台風になると外に出られません。それに高齢になるとスポーツはしんどくなります。私はこれ等は大切かもしれませんが、一番大事だとは思えません。むしろ二番目に大切だと思っています。
一番目に大切なのは先程の3項です。これが人間の心と体とに最も深く関係するからです。この健康法は体の芯の部分、体の深い所で自分の体を「調整、調和」してくれるからです。心にも大いに影響がありますから、「調心」にも良い影響が有ります。体の芯の部分が調和されると心も安定します。即ち先ず「体」の調整が基礎になります。それに心が伴ってきます。
今回はその3項の一番初めの「呼吸法」それも日常の呼吸法でなく「出来るだけ深い呼吸法」についてお話ししましょう。
私は40年近く前から呼吸法に何となく引き付けられ、呼吸法を教えてくれる所が幾つかある事を知りました。それで何ヶ所か回って、自分なりに少しずつトレーニングしました。そしてこの呼吸法で自分の心を調心するのは仏教の世界では基本であり、修行僧たちは呼吸法や正しい姿勢を身に付ける事から始まる事も知りました。つまり呼吸法とは、日本では心と体を基礎から調整するトレーニング法として、仏教という文化の中で伝えられて来たのです。つまりこれは極めて大切な「修行」の一つなのです。
そしてこの効果は絶大ですから、私達一般人もこの「修行」を毎日の生活の中に取り入れたらいかがでしょうか。古来から伝えられて来た寺院の伝統を私たちも学んで実行出来たら、豊かな良い生活が送れるのではないかと考えます。実際、私はこの呼吸法を毎日行っています。電車の中で何もしない時などは絶好の機会です。これをすれば電車の中がたちまち修行する寺院に変わります。電車の中では気が散ります。スマホを見ていると目が疲れます。それよりも背筋を伸ばして深呼吸をしている方が遥かに自分の為になります。歩いている時も、或いは先程の散歩をする時にもこれが出来ます。要するにその気になれば何時どこでも最高の健康法と思われる呼吸法を実行できるのです。
呼吸法を教示してくれる幾つかの教習所、或いは道場で習ってみると、皆共通している事は、息を吸う時よりも、「息を吐く」時を重要視している事です。そしてただ息を吐くだけでなく、吐くスピードを出来るだけゆっくりとする事です。
医学的に言うと、息を吸う時は交感神経が興奮します。これは何かをしなればならない時に働く神経で、これを絶えず働かせているとやがて疲れます。
これに対して息を吐く時は「副交感神経」が刺激されます。この神経は疲れた体を休ませる働き、体を調整する仕事をします。したがって私たちは毎日の生活で使っている身体を休ませ、調整する「副交感神経」に大いに活躍してもらわなければなりません。その為にこの神経を長く刺激する為に、吸気でなく、「呼気」を出来るだけ長い時間をかければ良いのです。
人間の体は絶えず、免疫力や抗感染力や無数の代謝が働いています。これ等はヒトが意識しなくとも働いてくれています。しかし現代の人にまつわる環境は昔とは比べ物にならない位に刺激的で複雑で強力です。ですから先程の免疫力や抗感染力や無数の代謝の力やバランスが何処かで狂わされているのではないでしょうか。
私たちはあまり意識しないでこの様な人体を攻撃している環境に慣らされ抵抗している、と思われます。ある人々はこれにやられっぱなしになっていてもそれに気づかずに、いつの間にか病気になっているような感じがします。それはこの環境が人の表面でなく、体の深い所で、芯の部分をかき回しているからでしょう。ですから今に生きる私たちはこの芯の部分を調整しなければならないのです。そのもっとも基本的な調整法が「呼気」を主体にした深く長い「呼吸法」であります。
呼吸法でもう一つ見逃せないのは、横隔膜を使う運動をする事です。呼吸法では横隔膜を押したり引いたりする運動を繰り返すので、この膜の下にある内臓をマッサージする事になります。すると内臓に関係する血管の流れが滞留せずにスムースになり、血流が良くなるので体の機能が活発になります。ですから深い呼吸を繰り返すと内臓のマッサージ効果と有効的な血液循環が起こるので悪い訳がありません。体を良い塩梅に刺激するので老化防止、健康増進に繋がります。
それでは実際の呼吸法についてです。
吸気、息を吸う時にも色々ありますが、それより今回は、いつもより多少ゆっくりと行う程度にしておきましょう。そしていつもより多めに息を吸います。そしてこの後が大切です。呼気、息を出す番です。これをことさらゆっくりと、長い時間をかけて息を吐きます。この長さですが、これもトレーニングです。息を細く長く時間をかけるのは始めのうちは思うようにいかない事もあるかもしれません。しかしこれもやってるうちに慣れてきます。
そして息を吐いている途中で腹を絞る感じ、横隔膜を押し下げる事を意識しながら、ゆっくり息を出しながらゆっくりと横隔膜を腹を絞りながら下げる、という感じで行います。腹を絞ると最初のころは全身に力が入ってしまいますが、其のうち腹だけの筋肉、腹筋だけを動かせるようになります。息を出し切って腹を絞り切ったらその力を緩めるだけで息がスッと入って来るのでそのまま息を吸う運動に移ります。これを繰り返します。その時間や回数などは人それぞれですが、それなりに納得できるようにすれば宜しいと思います。
呼吸法についてはもう一つ大切なポイントがあります。それは出来れば「正しい姿勢」で行う事です。背中が曲がったままではその効果が薄くなるので背筋をピッと伸ばすのが望ましいです。
背筋を伸ばし、肩の力を抜いて全身脱力しながら、吸った息をゆっくりと時間をかけながら、細く長く出し、途中でこれもじわじわと腹を萎ませる、息を出し切ったらフッと腹筋の力を抜く、その反動で自然に入ってきた空気を今度はゆったり吸う方向に向ける、この繰り返しです。慣れれば何と言う事はありません。
呼吸法の最後に一言付け加えます。呼吸法などは殆どの人は無関心です。無視しているので敢えてこの健康法に気付かないのです、重要視されていません。これは何故でしょうか。実は呼吸運動は自律運動であります。言わなくても体が勝手に動いてくれるのです。つまり無意識で動いており、無意識が支配する運動なのです。私たちは意識を主にして日常生活を送っているので、無意識にはそれこそ気づきません。その無意識の運動を、意識の上に載せて、現代人の一つの「行」としてするのです。ここがポイントです。
この「呼吸法」は何時どこでも出来ます。費用も掛かりません。この呼吸法を是非とも毎日の生活の中に取り入れて下さい。そのうち体の調和がとれ、心も豊かになり、人生も穏やかになるはずです。